2014年9月12日金曜日

やりたい!が言えた男の子




子供たちは「やりたい!」その想いを強く持っています.
それが成長の原動力になり
自分の可能性を広げていける.
そのことを私は子供たちから学んでいます.
巡回相談をしていて一番大切にしている力です.


そのことを教えてくれた一人の男の子のことです.




男の子は着替え、かばんの準備といった身の回りのことから手伝いが必要で
支援員がいないと何もできないと相談がありました。

「かばんを開けて」
「服を出して」
「服を脱いで」
「着替えて」
「服をしまって」
全ての行為一つ一つに声かけがないと
途中でどこかに行ってしまう.

友達との遊びでは
友達と園庭に出るものの、一人砂場で穴を掘ってはホロホロ歩き、
特に何かをすることがない.

先生は心配していました.


そんな男の子の問題に対応するために
担任の先生は支援員をつけ生活を助ける支援をしていました.
そして
「これで本当にいいのでしょうか」
と悩んでいました.


私は先生に
「先生が男の子にできるようになってほしいことはどんなことですか.どうしてそれができることが大切だと思いますか.」
と聞きました.

先生は
「彼はニコニコしているようですが、本当に笑ったり、泣いたりすることがありません.『先生!これできたよ!』幼稚園児はできたことを喜び、もっとこれがしたいんだ!と言ってくれます.でも彼は、注意されても、褒められても、心から感じている様子がない.何がしたいのかもわからない.
身の回りのことでいいのでできてほしいのです.そして『先生!できたよ』と笑う姿が見たい。彼が本当にしたいことをさせてあげたい.」

そう話してくれました.

”男の子が「できた!」と達成感を感じられるために 身の回りのことができること”

これが私たちの目標となりました.




“男の子が困っていたこと、したいこと”

男の子の生活からわかったことがありました.
男の子は聞こえることと、見えることの情報が他の子よりも沢山入ってしまい
本当に大切な情報を受け取ることができずにいました.
そのため、風の音や、友達の話声、日の光といった刺激が邪魔をして
先生が指示したことも、友達がしていることも、理解することができずにいました.

それだけでなく
自分が今何をしているのか
そのこともゆっくり感じることができず
日々の経験から学ぶことも
注意されたことや褒められたことを
自分のこととして実感することもできずにいました.


そんな中でも男の子は、友達がしていることを見てロッカーの前に来ることもありました。
見て理解することのほうが少し上手なのだとわかりました.

男の子は幼稚園を休むことはありませんでした.
着替えの時間は教室内に入り、外遊びのときは外に出てホロホロしていました.
男の子は自分がわかることを精いっぱい使って、なんとかしたいと思っているようでした.


先生とこれらのことを一緒に考え、どうしたらできるのか考えました.


それから2週間後
男の子は自分のロッカーの前で
”僕がやること”と書かれた小さなホワイトボードを見ながら
一つ一つ準備をしていました.

先生は真ん中にあった男の子のロッカーを壁の隅に移し
刺激が少ないところで作業ができる環境を作っていました.

男の子はハンカチをしまってはホワイトボードを見て
連絡帳を提出してはホワイトボードを見に戻ってきていました.
一つ一つ見ながらではありましたが、
自分の力で身支度ができるようになっていました.





その日の午後
雨が降ってきたので外遊びから急いで教室に入ってきた私たちは
男の子がいないことに気がつきました.
外を見に行くと
男の子は一人雨の中、虫取り網の柄と、長い棒をセロファンテープでつなげていました.

そのとき先生が
「あ!さっき別の子が木の高い所にいる蝉が採りたいと騒いでいた」と話しました.
男の子はその友達に蝉をとってあげようと虫取り網を長くしようとしていたのでした.
男の子が初めて、友達のためにしたい!と頑張っていたことでした.




夏休み前に授業参観がありました.
男の子は誰よりも先に竹馬を持ってきて、お母さんの前で乗ってみせました.
先生は「お母さんに見せるために頑張りたいと本人が言って 泣きながら練習したんですよ」と話しました.
そして、全ての保護者が帰った後も、男の子は最後までお母さんと竹馬を練習していました.
「僕はもっと高い竹馬に乗りたいんだ.ちょっとお母さん押えてて」
という男の子の竹馬を、お母さんは泣きながら支えていました.