ラベル 講演会 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 講演会 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2016年1月24日日曜日

保育所(学校)だから成長できること

昨日は恩納村の保育所の合同研修会でした。
恩納村へ巡回相談をはじめて3年目になります。


恩納村の保育所は所長さんの温かいサポート体制の中
ベテランの保育士からアイディアいっぱいの若い保育士さんまで
みんなで一緒に保育に取り組む連携があります。
地域の環境的に自然も多く
保育所なのに「ただいま」と言いたくなる
雰囲気の中、子ども達も伸び伸び生活していることをいつも感じます。


届けたい保育と子どもの成長

一人の男の子がいました。
男の子は言葉が少し苦手で、遊びの輪の入り方もわかりませんでした。
でも、友達が大好きでした。
そんな男の子はいつも三輪車に乗っていました。
先生が言いました「三輪車は保育所で一番人気の遊びなんだ。彼は三輪車に乗ることで友達を待っているんです」
三輪車に乗る男の子の周りには、いつも友達がいました。

ある時、男の子が手を洗っている間に三輪車がなくなりました。
男の子は泣いてその場に立っていることしかできませんでした。
先生が「どうしたの?」と聞くと
「僕の三輪車…」とだけしか言えませんでした。
先生は「みんなー。三輪車が無いって言ってるよ」
とだけ声をかけました。
子ども達が集まりましたが、三輪車はすぐに出てきませんでした。
男の子は言葉でその想いを伝えることができませんでした。
でもジリ、ジリと集まった子ども達に近づいていました。
彼は、近づくということで「僕の三輪車返して」と伝えていました。
先生は何もいいませんでした。でもその沈黙が彼の表現をみんなに伝える手助けとなりました。

その保育所の環境の中で育って1年後
彼は行動と言葉で、自分の力で友達と多くのことに参加できるようになりました。
そして、彼は誰よりも丁寧にお遊戯が踊れる男の子になっていました。
誰よりもきちっと支度ができる男の子でもありました。


この成長は、保育所という”社会”が
引き出した成長だと思います。
ここには多くの
《やりたいこと》と《期待されていること》があるのです。
「友達と遊びたい」「先生によくやったと言われたい」「友達にありがとうって言われたい」・・・その子のやりたいこと

「子ども達だけで解決できるようになってほしい」「自分の力で伝えられるようになってほしい」・・・先生の期待
「僕も三輪車使いたい」・・・友達の期待
*「貸して」と言って「ハイ、貸します」という子ども達は珍しい。少し躊躇したり、今は貸したくないと言ったり、先に使っていいけど必ず返してねと条件付きで貸してくれたり。こんな子ども達のありのままの交流は、互いへの期待です。待ってくれる?諦めてくれる?返してくれる?その期待の中でどう行動するか選択できる環境は、子ども達の育ちに重要です。

その《やりたい+期待》がたくさん詰まった保育所・学校という社会に参加できることの重要性を、”人ー作業ー環境”の関係を入れつつ伝えました。先生達が保育の専門家として安心して子供達と向き合っていただけることが私の役割でもあります。

研修では先生方とグループワークで「届けたい保育(目標)」をもう一度
明確にしてもらいました。



多様性あふれる子供達へ保育の叶え方
後半は実際、保育が上手く届かない子に対し悩んでいる先生方へ
届け方に工夫が必要な子供も含めた、集団(クラス)としての保育の届け方の話です。

[トイレに行く]
その活動には沢山の工程(行為)が含まれています。
また一つの工程には沢山の動作が含まれています。

トイレに行ける or 行けない(can or can't)
ではなく、〇〇はできているが、〇〇は難しい
と工程ごとに見ていくことでその子の苦手としていることが詳細にわかるだけでなく、上手くできていること(ストレングス)も見つけられます。

もしも「トイレに自分の力で行くことができる」という届けたい保育に対し、その子のトイレを見てみた場合…

「トイレでいつも立ったまま。先生が来るのを待っている。」と見えていた子も
   ↓
《できずに困っていること》
1.どのトイレを使っていいのかわからず個室に入れない
2.ズボンのゴムが掴めず下ろせない、上げられない
3.手を洗い忘れる
等…

《できていること》
1.友達がトイレに向かうとそれを見てトイレに行く
2.ズボンを脱ごうとして手をズボンに近づける(脱ぐことは知っている)
3.排便・排尿ができる
等…

こうして見てみると、
「使うトイレを決めてシール貼ってあげたら?」とか「ゴムを緩くしてズボンをどこでも引っ張れば脱げるようにしたら?」とか
手くできていないことを、できるようにする工夫が浮かびませんか?

次にできていることを見てみましょう。
彼はとってもトイレにチャレンジしていることが解ります。そう、「自分の力で行くことができる」という保育に対し、「自分の力で行こうという気持ちは育っている」事がわかります。



こんな風に見ていくと、叶えるための糸口が沢山有ることがわかります。
全部がダメではなく。その保育に叶ってきていることがある(段階的に実現して行けている)事がわかります。

大切なことは叶える糸口に先生が気づけることです。
保育所や学校は集団社会です。
「こう支援しましょう。」という方法の指導ではなく、
「こうやったら叶えられる!」「コレもいいんじゃない!」といろいろな方法を先生達が発見できることが重要なのです。クラスを育てるという役割の先生の、マンパワーや時間などできることの中で、できることを選べることが重要です。


最後にはできるための方法を先生達がたくさん見つけられるために
子ども達の中で何が起こっているのか
「どうしてトイレを選べないの?」
「どうしてゴムが探せないの?」
「どうしてロッカーに入るの?」
「どうして落ち着きなく走り回るの?」

などそれぞれのケーススタディを行いました。
おそらくこの情報は先生方が一番聞きたいと思っていることとは思いますが、最後にこの事を持ってきたことには意味がありました。

はじめに子の話をしたら
「そうか!だからできなかったのか!」とできない理由見つけが頭のなかで始まってしまうからです。
大切なことは
先生の届けたい保育・教育の実現のために
どうしてできないのか?どうしたらできるのか?を考えていけることです。
常に焦点を当てることは「届けたい保育・教育」であって欲しいのです。

それが子供の可能性あふれる成長に欠かせないからです。






最後までありがとうございました。
どんな子ども達にも先生の素敵な保育が届きますように…
そのお手伝いができればと思っています。

















2015年3月9日月曜日

OTMAG 2015〜岐阜〜

岐阜県羽島で開催されたOTMAGに来ています。


舞台裏でコーヒーを挽き
鰹節をひいて山の水で煮出した出汁で味噌汁を作り
漬物をつけてくる
そんな研修会です(笑)


さて、私はトップバッター…
初の大役緊張しました。
「みんなで決める子ども達の目標」が私のテーマ。





みんなの"届けたい"を目標にする

 学校に巡回相談に行くと、専門家に対し先生方は悩んでいる問題を話されることが多く、その問題を解決してくれると期待されやすい。しかし、問題を解決するのであれば、この問題行動の原因を分析し対処することになります。

問題行動の要因…
  • 器質的要因は今すぐ治すことができません(もちろん器質的要因を見ないのではありません。その回復や維持だけを目的にしないということです)
  • 家庭環境の要因は親の生活が影響しているため学校の先生が関わりにくい。
  • 生活歴の要因においては過去のことなので変えることが出来ません。
そんな「いつ解決するか見通しが持てない問題」と向きあう面談では、障がい児に産んでしまったことや、良い関わりができなかったことなど、子どもに関わる親や先生が苦しい思いをさせてしまう恐れがあります。



 しかし、問題を感じるのはその子に先生・親が届けたいことがあるからです。この「願う生活」「届けたい教育・保育」「僕がしたいこと」みんなのやりたいを目標にし、実現することを目的に支援をしよう!
これが私達ADOCprojectのコンセプトです。

楽しい!ずっとやりたかった!明日からワクワクする!
そんな思いから支援を始めたい。
全ての人が当たり前にやりたい事を選択できる。
それが私達の願いです。





達成したいことのある支援

 先生達は毎日忙しい中、子ども達の問題に追われてきた経緯があります。「さあ!目標を立てましょう」…といっても、目標を立案すれば達成しないといけない支援の不安があるようです。

 目標を立案する、ということは「叶えたいことを思い描く」ことであり、仕事上のtaskではありません。
例えば「友達と学び合ってほしい」という目標に対し
⇒まずは互いに関わる機会を作ろう
⇒掃除という関わる機会の中で子供が変わった
⇒友達も変わった
⇒その様子を見てまた次は運動会でもやってみよう
⇒一歩先が見えてくる…

 常に「達成したい先を見続ける支援」は、なかなか叶えられない不甲斐なさに悩むことはあっても、子供の未来に不安を抱き「これでいいのだろうか」とエンドレスな悩みを抱くことはありません。
 そして「見てください!掃除してるんですよ」「聞いてください!子供たちで教えあったんですよ!」子供の微細な成長も、確かな変化として先生が捉えられる。支援への安心・感動 「支援にやりがいを感じ、変化を実感し喜べる」

目標を持つということは、そんな支援を実現することにつながるのです。



今回の講演では、その他にも目標を持つことの効果や、目標の立て方、先生と保護者が協働関係を築く面接方法などお話させていただきました。





作業療法士の役割

 私達は、面接を通して、先生と保護者の「問題解決」という視点から「届けたいことの実現」という視点へと変えていき、適切な情報収集と提供によって、本人・先生・親のエンパワメントを支持し、主体的に支援に参加できることを実現する。そのようなコンサルタントとしての役割を求められています。
 私達は医療の専門家であり、子ども達の身体的・精神的・認知的機能を含むあらゆる要因を見る力も持っています。しかし、それらの情報収集と提供が、先生や親の「やりたい」を止めてしまうものであるならば、その情報は全くの無意味だと思うのです。
 情報について、提供すべきタイミングと質、形(写真を活用するなど)を適切に選択・調整できれば、クライエントのやりがいに繋がり、主体的に動き出す原動力になり、自信につながり、生活を変えていくことを支えられるのです。




 不安でたまらない支援ではなく、子供の将来を期待し、成長に感動できる支援を実現させていきましょう。インクルーシブ教育が始まり、子ども達の社会参加が保障されつつある今、作業療法士としての役割を強く感じる毎日です。



今回、このような機会を作ってくださった山口さんをはじめOTMAGの皆様
暖かい雰囲気で聞いてくださった会場の皆様
本当にありがとうございました。